南山大学

 

研究活動 活動報告

 

公開シンポジウム「水上と陸上に生きる:アジアの船上生活者が経験した「陸上がり」」

[開催日] 日時:2017年2月18日13:00〜18:00
[会場] 南山大学EB棟B21教室
[講師]

岸佳央理、藤川美代子、厚香苗、鈴木佑記、稲澤努、二文字屋脩

概要

  • プログラム
  •   2017年2月18日、「水上と陸上に生きる:アジアの船上生活者が経験した「陸上がり」」と題して、共同研究「定着/非定着の人類学:「ホーム」とは何か」関連第1回公開シンポジウムを開催した。発表者は、歴史学・文化人類学・民俗学の立場から、香港・中国・日本・タイの船上生活者に注目してきた若手の研究者である。本シンポジウムでは、各地の船上生活者に関わる一連の陸上がり政策と、その後の彼らの社会・生活・生業についての具体的かつ詳細な事例報告から、陸上がりの意味について考察することを目指した。

    【各報告・質疑応答の概要】
     岸佳央理氏:中国大陸での政治変動による難民の流入、人口爆発、住宅地・水資源の不足といった1960年代の香港が抱えていた特有の事情を背景に、水上居民の「陸上引き上げ」政策がいかに進んでいったのかを、豊富な档案資料の分析をもとに考察した。三門仔の事例からは、陸上定住化は政府主導の淡水湖建設のために水上居民を強制移動させるという側面をもってはいたが、生活保障などの具体的な施策については水上居民の民意が一定程度反映されたほか、陸上定住自体、水上居民が希望したことであったとの状況が報告された。
     藤川美代子:中国福建南部の連家船漁民を事例に、1960年代の居住地割譲と集合住宅建設から始まる一連の陸上定居が、一方では集団化政策を進める為政者にとって連家船漁民の管理(住所の確定・労働配置・漁業収益の効率的な回収と再分配)に適した制度であるように見えながら、連家船漁民自身は「苦渋に満ちた生活からの脱却の契機」として語るという状況について分析した。また、非差別的状況からの脱却のために家屋の獲得を強く希求しながら、生業・生活を陸上空間だけに限定するいわゆる「定住」状態に関心を示さない連家船漁民の現在の生活のあり方が報告された。
     厚香苗氏:大分県の「船乗りの村」を事例として、近世後期に現在の村の場所に家屋を構えながら、長らく各地の海を移動する生活を続けていた船上生活者が、近代になると九州や関西の大都市の港湾労働に出て、その先の都市で陸上がりしてゆくという状況を報告した。そのために現在でも「船乗りの村」は普段は人が少なく、お盆などになると各地から村へと「帰ってくる」との状況があること、また近隣の村とは異なる住民の慣習的・文化的特徴が、彼らの移動の歴史を示す壮大な伝説によって語られるとの事例が報告された。
     鈴木佑記氏:タイのモーケンを事例に、生業・生活の場であった海が国立公園化されて観光開発の対象となり、厳格な管理下に置かれたこと、さらに2004年のインド洋津波の被害によって潮間帯での家屋建設が禁止されたことといった外的要因により、一見すれば海から陸へと向かうかに思われるモーケンの生業・生活空間が、実際には小さな変化を呼び起こしつつも、さほど変化していないという状況を考察した。そこには、公園管理局の管理が行き届かぬ季節に、政府により提供された規格的な家屋の素材や位置をずらし、自らの生活・文化に適した家屋へと作り変えるモーケンのしたたかな抵抗の戦略があることが報告された。

     総合討論では、まず、コメンテータの稲澤努氏より、地域的文脈を踏まえて個々の発表者に対する質問と、ご自身の調査(中国・広東省の水上居民社会)の事例の紹介およびそこから得られた知見をご発表いただいた。次に、コメンテータの二文字屋脩氏より、ご自身の調査(タイの狩猟採集民ムラブリ社会)の事例の紹介とそこから得られた理論的知見をご発表いただいた後、国家的関心としての森の資源と海の資源の重要性に差がある可能性はないか、シンポジウム全体として、移動/定住をめぐる現存の理論にいかなる貢献をし得るのかとの問題提起をいただいた。その後、発表者とコメンテータ、フロアとの間で活発な議論が展開された。

当日の様子

発表とコメント

総合討論


会場の様子