南山大学

 

研究活動 活動報告

 

公開研究会「災害ミュージアム×防災地理学」

[開催日] 日時:2016年2月19日(金)(金)13:30-18:00
[会場] 南山大学人類学研究所1F会議室
[講師]

阪本真由美(名古屋大学減災連携研究センター)、西村雄一郎(奈良女子大学)

概要

  • プログラム
  •  本研究会は、人類学以外の視点から災害について考えることを目的として、災害の記憶を伝える災害ミュージアム、およびウェブ地図を通じた市民参加型防災活動に関した講師をお招きして開催した。
     阪本真由美氏は、阪神・淡路大震災後につくられた神戸の人と防災未来センターを中心に、災害ミュージアムにおける災害の語りや記憶の継承がいかに変化しているのかについて発表をした。日本では石碑等で災害の事実を記録されてきたが、それがいかに後世の防災につながるかには問題があった。ものを残すだけでは記憶を伝えるのが難しいことから、ミュージアムが有効だと考えられる。人と防災未来センターは、世界の災害ミュージアムのなかでも屈指の収蔵品数を誇り、そのほとんどは被災した市民から寄贈されたものである。これはものの来歴を理解し、記憶の担い手から展示を構成するという理念に基づいている。しかし一方で、展示が防災に回収され、市民からの寄贈という点を活かしきれていないという指摘もあるという。質疑応答では、ミュージアムが対象とする来館者は誰なのか、災害のとらえ方の差異や記憶のあり方、ミュージアムと来館者の相互作用で展示が出来上がっていく点について議論が展開した。
     西村雄一郎氏は、GIS(地理情報システム)を利用した市民参加型の防災マッピング活動について発表をおこなった。阪神・淡路大震災以降のネオジオグラファーと呼ばれる地図情報をネット上にアップする人びとの登場、そして東日本大震災において、ボランティアベースで安否確認や被災情報を共有するサイトが登場するなど、IT技術は研究者や行政から市民に大きく開かれていった。その後、ユーザー自身が編集可能なウェブ地図であるオープン・ストリート・マップや、IT技術を活用して地域やコミュニティの課題を解決するためのシビックテック活動の事例が紹介された。このようなウェブ地図は、災害時に外から支援活動をおこなう人が被災地の情報を知るのに役立つだけでなく、その地図づくりの活動を通して、地域住民が自らの居住地域の特徴や知識を得ることに意味があり、その重要性が指摘された。質疑応答では、ウェブ地図の信頼性、さまざまなデータをいかに一元化するのか、ローカルな地図情報のリアリティの重要性などについて議論された。
     災害ミュージアムが記憶、ウェブ地図が情報を扱っていることから、本研究会では、記憶や情報が誰のもので、誰のために活用されるのか、いかに共有できる/されうるべきなのかという点、あるいは記憶や情報が重層性を持つとしたらどこを拾い上げるのかといった点など、共通する論点が含有されることが示唆された。

当日の様子

研究会開始

阪本真由美氏

西村雄一郎氏