南山大学

 

研究活動 活動報告

 

台風に対応する社会と文化−沖縄・奄美・台湾の比較研究−

[開催日] 日時: 2015年10月24日(土)13:30-18:00
[会場] 南山大学R棟31教室
[講師]

玉城毅(奈良県立大学地域創造学部)、山田浩世(日本学術振興会特別研究員PD)、藤川美代子(南山大学人類学研究所)、西村一之(日本女子大学人間社会学部)、上水流久彦(県立広島大学地域提携センター)、東賢太朗(名古屋大学大学院文学研究科)

概要

  • プログラム
  • 人は自然現象による生活基盤の破壊という「危機」をいかに受け止め、いかに「再生」へと向かうのか―。今回の研究会では、常襲する台風と対峙するために人々が各地で積み重ねてきた家屋造りの知恵と社会関係資本(Social Capital)に注目し、この問いに答えを出すことを試みた(参加者は約25名)。 玉城氏は、沖縄における台風被害の具体的な様相と戦後の村落部における家屋構造の変化の関係について、人類学的な現地調査と公文書の文献調査をもとに分析した。村落部では1970年代まで、近所同士の無償の労働力提供により家屋の建築と修繕が可能であったこと、米軍政府統治下の住宅政策が沖縄全土でRC家屋を普及させる契機となったこと、技術の発展が結果的には村落内の助け合いの消失をもたらしたことなどが明らかになった。 山田氏の報告は、玉城氏が明らかにした沖縄の伝統的な相互扶助について、その成立背景を歴史学の立場から考察するものであった。現在では「南国特有の助け合い精神」とも評される社会関係資本が、琉球王国における耕地の「親疎なき配分」と村単位での租税負担という政治的・経済的文脈によって生まれたものとの見解が示された。 藤川氏が事例としたのは、地理的に沖縄と隣接し、米軍占領を含めて多くの歴史的経験を共有する奄美大島であった。人類学的な調査に基づく考察の結果、琉球王国への入貢から薩摩藩の支配を経て地域社会の階層化が激化しても村落内部の強固な社会的紐帯は維持され、家屋の建築や修繕に際して大きな力を発揮したこと、この紐帯は1970年代以降に高齢化と過疎化が進んでも保たれていること、さらに沖縄と対照的に奄美大島ではRC家屋が導入されても、「壊れやすいが再建しやすい」という論理でトタン屋根の木造家屋へと回帰する動きが見られることなどが明らかにされた。 西村氏は、台湾東海岸の先住民アミの家屋構造の変遷と台風の関係性について、人類学的な視点から分析した。母系制のアミ社会では男子年齢階梯組織を中心とした労働力の交換で茅葺木造家屋の建築と修繕が成立していたこと、1960年代に増加する西洋風のRC家屋の背景にはキリスト教浸透による年齢階梯組織の解体や都市部や海外への集団出稼ぎといった社会の変化があったこと、さらに家屋の脆弱性の低下と反比例するように社会関係資本は弱化しており、避難できずに取り残される独居老人が出現していることなどが示された。 総合討論では、上水流氏・東氏のコメントとフロアからの質疑に登壇者が応答するという形で、危機(risk)と回復力(resilience)を研究する意義、社会関係資本やつながりという概念の再検討、災害を通して生まれる人と人との出会い、災害についての想像力といったことが討議された。

当日の様子

玉城氏発表

東氏のコメント

総合討論の様子