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『いま「食べること」を問う』               ―本能と文化の視点から―

2010.12.27 岡田

 食育基本法が制定されて,5年が経過しました。法の趣旨は,次のようなものです。

「子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも「食」が重要である。今、改めて、食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎ともなるべきものと位置づけるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている。もとより、食育はあらゆる世代の国民に必要なものであるが、子どもたちに対する食育は、心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるものである。」

豊かな食文化の継承と発展、環境と調和のとれた食料の生産や消費の推進が今改めて問われています。この問題を,類人猿から人への進化の過程の中で捉えなおした書物があります。栄養化学専攻の伏木亨氏と霊長類学専攻の山極寿一氏による『いま「食べること」を問う』―本能と文化の視点から―(サントリー次世代研究所編)です。

人とチンパンジーでは,99%の遺伝子が共通しています。しかし,著者たちによれば,人が類人猿と決定的に異なる点は,食べることが社会性を持ったことだと言います。人間以外の霊長類にとって,食べるということは,どこまでも個人的な行為であり,分け合って食べるということは親子以外,まずしません。むしろ食べ物はけんかの源になります。人は,お互いに競合し,争いの原因になる食べ物を,逆に共存の材料にしました。食べ物を媒介とする抑制と協力,同調や葛藤は,人間の社会性を築く上で大きな役割を果たしてきました。このように著者たちは議論を展開し,食べることの「共同性」と「公開性」へ話題が広がっていきます。一読をおすすめします。

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