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『学習の輪』〜協同的学びのススメ〜

2010.11.15 石田

 「学びというのは本来的に自分ひとりでするものであって、知識というのは個人の頭の中に構成されるもの」と考える人は多いと思いますが、自身の学校生活をちょっとふり返ってみれば、それが誤りであることにすぐ気づくはずです。

 解決の袋小路に入って自分ではどうしてもわからなかったことが、友だちのちょっとした一言で即座に解消、といったことはけっして珍しいことではありません。

 このように知識はまわりの人との相互作用によって深まり、より確かなものとなります。つまり、学びは社会的な営みであって、教え合い学び合いによって身につくことが多いのです。

 学びが行われる社会的事態には競争、個別、協同の3つがあります。「他人と競うことは人間の本性だから、競争こそ仕事や学びへの動機づけに効果的である」という主張をよく耳にします。

 こうした主張が誰によって唱えられるかを注意深く観察してみると、提唱者の大方は何らかの意味で競争を勝ち抜いてきた人たちであるといって間違いありません。「私は苛烈な競争を頑張って生き抜いてきた。君たちも同じように努力すべきだ」というわけです。
しかし、競争というのは努力すれば、頑張りさえすれば誰でも報われるかというとそうではありません。
競争は成果主義ですから、その人が途中で払った努力にはかかわりなく、結果のみによってその優劣・勝敗が定まってしまうということが起こります。どんなズルイ手を使おうと結果がすべてです。

 また、競争は相対的な順位によって勝ち負けが決まりますから、自分のエネルギーを努力に注力せず、他人を引きずり下ろすことにもっぱら充てることによって、自分が上位に立とうとすることも起こってきます。

 学校では、競争によって一部の者だけが学びの勝者であることは許されません。目標の達成が仲間の犠牲の上になされるようなことがあってはならないし、他の生徒を不利に追い込むことによってしか達成が得られないということがあってもいけません。
学習活動では、誰もが等しく達成のチャンスを与えられていて、それゆえに支え合い、切磋琢磨して、互いの成功を喜ぶことのできる、仲間との協同的な取り組みがもっとも大きな成果を生むのです。
                       

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 そんな協同学習の優れた入門書である、Johnson, D. W., Johnson, R.T., & Holubec, E. J. (2002)  CIRCLES OF LEARNING(5th ed.)の翻訳を出しました(改訂新版『学習の輪』-学び合いの協同教育入門- 二瓶社)。自分が訳したから言うわけ・・・・・ですが、協同を組織の中に築くための基本的な考え方と方法について、わかりやすく述べられたとてもいい本です(少なくとも、原文は)。学校だけでなく、あらゆる組織のチームワークに関心がある人にとっての、いろんなヒントが溢れていると思います。

 思えば、今年のサッカー・ワールドカップ日本代表がどうして“途中から”あんなに強くなったのか、能力にかけては世界の超一流選手をキラ星のごとく集めたフランス代表がなぜ“あっけなく初戦敗退”してしまったのか。
これはいずれもチームワークの問題なのです。「ひとりは皆のために、皆はひとりのために」が共有されたグループは、個人の総和以上の力を発揮します。それは教室の中でも、会社でも、スポーツでも何ら変わりはありません。


(石田)

 

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