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サッカーの話

2010.06.28 中路

 南アフリカ共和国で現在行われているサッカーW杯、日本がグループリーグ2位で決勝トーナメントへ進出した。大会直前の強化試合で4連敗を喫し、今回のW杯では予選リーグの突破は難しいだろうという戦前のおおかたの予想を覆し、見事な決勝進出である。おかげで、日本国中が一気にお祭りムードとなった。授業を行おうとしても学生の気はそぞろで、なかなか授業の内容に集中できないようだ。このため、学生の気を惹くためにわざとサッカーやW杯の話題から入り、それを呼び水として本題に移る作戦を使っている。そうした時期に当原稿の番が回ってきたので、ここはやはりサッカーの話題にしようと思う。

 サッカーは、確かに見ていて楽しいスポーツだ。なかなか思うように攻撃できず、得点が入りづらい。かと思えば、一瞬の隙でゴールが決まるし、そこに偶然が作用することもある。強いチームが必ずしも確実に勝つとは限らない。裏を返せば、弱者が強者を食う可能性もじゅうぶんあり得る、ハラハラさせるスポーツだ。日本がW杯の本戦に初めて出場できたのは1998年のフランス大会であり、それまでは我々の目に触れる機会が少なかったため、W杯がこれほどまで世界に注目されるスポーツイベントであるとは知られていなかった。たった32カ国しか出場していないサッカー単体のスポーツイベントであるのに、オリンピックに匹敵するメガイベントなのである。放映権料はオリンピックに及ばないらしいが、それは巨額の出資者であるアメリカTV局の関心度が低いからにほかならない。経済大国であるアメリカと日本ではサッカーが弱く、国民の関心が高くなかったが、世界的にはサッカーほど広く浸透しているスポーツはない。

 サッカーはボール1個あればどこでもできるスポーツだ。ゴールがなくても何か目印のものを設定するだけで代用できる。ルールもいたってシンプルだ。それが世界中にこのスポーツを普及させた要因だろう。サッカーの起源は諸説あるが、中世の時代にイギリスの各地で自然発生的に行われていた数百人単位のストリートフットボールが、近代に入ってパブリックスクールで課外活動として取り入れられ、ルールが整備されていった。はじめは学校やクラブ単位で行われていたために個々に独自のルールが採用されていたが、1863年にルールが統一され、フットボールアソシエーションが設立された。そのときのルールを調べてみると、ゴールポストの間を通過できなかったシュートは、ゴールラインを越えた場所でそのボールを攻撃側が押さえることができれば、ゴールライン内側15ヤードの所からフリーキックによってゴールを狙える、という。これは、ラグビーのトライとその後のコンバージョンゴールに酷似している。当時のサッカーは先頭を行く者がドリブルで進み、後方にしかパスが許されていなかった。つまり、ボールを持つ者より前方にいる者はすべてオフサイドルールが適用されており、ラグビーとの違いは手を使ってボールを運んで良いか(その代わりタックルされる)どうかだけであった。その後、相手側ゴール前に3人以上(現在は2人以上)守備の者が残っているなら、前方にパスをしても良いというルールが採用され、パスが多用される現代のサッカーへと変わっていったのである。このようにオフサイドの規定を緩め、ゴール方式をシンプルにしていったルール変更がなければ、今のように世界的に普及することはなかったかもしれない。

 ところで、FIFAはサッカーを世界的に普及させるためにW杯を有料放送で放映することを禁じているという。貧困に喘ぐ国の人々にもW杯を楽しんでもらおうという趣旨なのだろう。南アフリカ共和国以外のアフリカ諸国からは放映権料も徴収しないという。スポーツビジネス花盛りの現代において、ちょっと心温まるような話だなと感じた。

(中路)

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