南山大学大学院人間文化研究科 教育ファシリテーション専攻

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書評

教育ファシリテーションに関わる文献図書を紹介していきます。読者の皆さんからも、お勧め図書の推薦メールをお待ちしております。

安達智子・下村英雄編著
『キャリア・コンストラクション ワークブック −不確かな時代を生き抜くためのキャリア心理学−』 金子書房 2013

近年,キャリア教育に関する書籍は多く販売されています。全てに目を通しているわけではありませんが,目についたら目次に目を通し,パラパラとめくるくらいはするようにしています。 …しかし,「これは!」と思うものに出合うことは,残念ながらめったにありません(個人的に,ですが)。こういう本の内容はある程度決まってしまったような感じがして,数冊持っていればそれ以上購入することもないか…と踏みとどまってしまいます。
今回紹介する本は,これまでのものとは一線を画したものだと思っています。執筆陣も研究者で,先端の研究成果を現場にフィードバックしようとする姿勢が強く感じられます。そのため,ワークブックという自学自習形式なのですが,カウンセラーやファシリテーターの立場の人には,これを材料としてどう使いこなすかと考えてみるととても勉強になると思います。正直なところ,これを使いこなすにはかなりの力量が必要と感じていて,キャリア教育やキャリアカウンセリング領域の初学者の人にお薦めするものではありません。より高みを目指してステップアップをしたい人には強くお薦めしたい本です。

【浦上昌則 2013/02/18】

アーノルド&エイミー・ミンデル著
『うしろ向きに馬に乗る <プロセスワーク>の理論と実際』春秋社、1999 

これはArnold & Amy Mindell "Riding Hose Backwords : Process Work in Theory and Practice"の翻訳で、「プロセス志向心理学」の創始者であるアーノルド・ミンデルとエイミー・ミンデルが、1987年にエサレン研究所で行ったプロセス志向心理学のトレーニングプログラムの逐語記録です。実習を交えながらのレクチャーと個人ワークのセッションが中心ですが、最後の方ではエサレン・スタッフに対するコミュニティワークの記録もあり、非常に興味深いでものす。
一瞬一瞬の「いまここ」で自分に起こっていることに対する「気づき」を得ることによって、自分と出会い、自分を生きることが可能になるという仮説は、パールズのゲシュタルトセラピーやロジャーズのエンカウンターグループ、センサリーアウェアネスやボディワークに代表される1960年代のヒューマンポテンシャルムーブメントを生み出したニューエイジの心理学である人間性心理学と、それに続くトランスパーソナル心理学やホリスティック心理学などに共通のものですが、日本独自ものとしての竹内敏晴の竹内レッスンや、さらには古来からの仏教思想の「禅」や老荘思想の「道」に共通する考え方だといえます。
実際にワークの中で体験され指摘されるプロセスは、日常生活の中ではほとんど気づくことのない、むしろ気づくことを避けているプロセスですので、その人の非常に深い部分に触れてくるものがあるのですが、ワークを進めていくミンデルのファシリテーションの一言一言は、原理に裏打ちされた厳密さを秘めながら、なおかつ参加者に寄り添っていく暖かさを持った優れたファシリテーションの例を見せてくれます。もちろん1対1の個人への働きかけですのでグループに対するファシリテーションとは大きく違う部分がありますが、ファシリテーションするということに対する基本的なスタンスや、言葉使いの機微などは大いに参考になるでしょう。パールズのゲシュタルトセラピーも逐語記録がいくつかありますが、パールズの天才的なファシリテーションに対してミンデルのファシリテーションには構造があるので分かりやすいと思います。プロセスワークはゲシュタルトセラピーと竹内レッスンが合体したようなワークです。
このHPを見る人でエサレン研究所の名前を知らない人はいないと思いますが、行ったことのある人は少ないでしょう。イマジネーションを充分働かせることができれば、そこでのワークに参加しているような体験ができる(もちろん自分のワークはできませんが)と思います。

【山口真人 2004/04/05】

ガイスバース、ヘプナー、ジョンストン著
日本ドレーク・ビーム・モリン株式会社ライフキャリア研究所(訳)
『ライフキャリアカウンセリング −カウンセラーのための理論と技術−』生産性出版 2002

ファシリテーション専攻なのに、カウンセリングの本?と疑問に思われる方 もおられるでしょう。まあ、いいじゃないですか。キャリア選択や開発に携わるファシリテーターとして、いくらでも利用できるところはありますので。
私が進路選択に興味を持ったのは、大学を卒業するころのことです。それ以来、色々と本も探ってみていたのですが、学校での進路指導や、キャリアガイダンスを本格的に勉強したいと思っても本が無いことに気づきました。もう少し正確に言うと、日本語の本が極めて少ないのです。
こういうと間違いなく反論が出ると思います。教職につきたい人向けの進路指導の本や、進路指導関係の実践書などはたくさんあります、と。それは私も知っています。でも、乱暴な言い方ですが、それらは本格的とは言いがたいのが現状です。教職用の本は、あまりに概論的で内容も古典的。基礎知識としてはいいけど、本格的にやるには情報不足で古い。実践書はあまりにHow toすぎて、なぜそれを実施するのか、どのような効果があるのかなど、理論的な背景が見えない。あくまでもHow to本。最近は、タイトルに「キャリアカウンセリング」が入っている本も増えてきましたが、専門書というには今一歩。本気で取り組みたいときには、いずれも帯に短しと言わざるを得ません。こんな現状を嘆いていた人には朗報です。
日本ではこんな状況ですが、海外はというと結構出ているんです。このての本が。でも、ほとんど翻訳されていないのです。そんな中で見つけたのがこの本です。400ページを超える本格派です。引用文献もきっちりと書いてあるし(もちろん、全て英語ですが…)。そのため、ちょっと挑発的に言えば、本気で取り組みたい人“だけ”におすすめします。渡辺三枝子・E.L.ハー著 「キャリアカウンセリング入門」ナカニシヤ出版2001や宮城まり子著「キャリアカウンセリング」駿河台出版2002を卒業された方々に!

【浦上 2003/06/23】

中野民夫著
『ファシリテーション革命−参加型の場づくりの技法−』岩波アクティブ新書 2003

「教育ファシリテーション専攻?」聞きなれない専攻名である。いったい何を学ぶ大学院なのだろうか。そんな印象を持たれた方も多いことと思う。そのような人にお勧めの一冊が、中野民夫著『ファシリテーション革命−参加型の場づくりの技法−』である。
著者の中野氏は、人類が直面している近年の困難な問題(地球規模の問題から企業やNPO/NGOが抱えている問題、さらに身近な生活問題まで)を解決するためには、従来型の指導者ではなく、人々の英知を引き出すファシリテーターが必要になると主張する。ファシリテーターは、一方的に知識を伝授する専門家や教師ではない。また、上から命令する指導者でもない。中野氏の言葉を借りれば、ファシリテーターは「支援し、促進する。場をつくり、つなぎ、取り持つ。そそのかし、引き出し、待つ。共に在り、問いかけ、まとめる」役割を担う支援者である。
本書は、ワークショップにおけるファシリテーションの活用に焦点が当てられているが、会議や各種教育、市民活動、行政など幅広い分野への応用についても言及されている。すぐれたファシリテーターになるための心得や役に立つ技術の記述に紙面の多くが割かれており、誰にとっても有益な知識が得られると思われる。実際のファシリテーション能力やスキルは、体験や実践を通して確実に身についていくものであろう。しかし、ファシリテーションの考え方を頭で理解しておくことも有用である。ちょうど、水泳やスキーなどの運動技能を獲得するためには、実際に身体を動かさなければ覚えることができないが、事前に知識として頭で理解しておくことが、スキルの習得を促進するのと同じように。
本書を勧める者としてやや不満な点は、著者が学校教育へのファシリテーションの応用にやや消極的な点である。確かに学校の教師は、すべての子どもたちに膨大な知識を伝達するという重要な役割を担っており、一方向的に学習に関する「指導」をしなければならない点は認めざるをえない。しかし、近年、小中学校や高校で取り組まれている総合的な学習の時間においては、教師は、まさにファシリテーターとしての役割を期待されている。教師にとって、さまざまな指導方法(指導スタンス)を持つことは決して損にはならない。ファシリテーターとしての教師のあり方を身につけることは、教え方の幅を広げたり、子どもへの接し方にもよい影響をもたらすものと思われる。是非、教育現場の先生方にも読んでもらいたいと思う。

【神谷 2003/06/09】

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