2009年10月の雑記



≪10月18日≫

仕事に追われてばたばたしている内に、もう10月も後半になってしまった。

こないだ幾人かの学生と寿司屋で食事をしていた時、
ふとタコについての話になった。


タコは英語でオクトパス(Octopus)と言うが、これはタコの足が8本だからである。
語源はギリシア語。オクトが「8」、パスが「足」を意味する。つまりオクトパスとは「8本足」のこと。

このギリシア語は古典ラテン語にも入っていて、ラテン語でも8はオクトー(octo)、足はペース(pes)である。

ちなみに10月のことを英語でオクトーバー(October)と言うが、このオクトーも実は8である。
これはローマ暦に由来するもので、古くは3月が年の始めだったので、8番目の月という意味だった。
ところが紀元前153年以降は1月が年の始めとなったので、2ヶ月分ずれてしまったまま、現在に至っている。

さて、それはともかく、タコである。ラテン語ではタコはどう言うのだろう?

実は、古典ラテン語の辞書でオクトパスを探しても、載っていないのである。
ローマ人も地中海のタコを知っていたはずだが、オクトパスとは呼んでいなかったようだ。

英語語源辞典をみてみると、オクトパスの英語初出は1758年で、
ギリシア語から近代ラテン語(Neo-Latin)を経て英語に入ったらしい。
近代ラテン語とは15〜16世紀ごろのラテン語のことである。

それでは、古典ラテン語や中世のラテン語ではタコは何と言ったのか。

調べてみたところ、古典ラテン語でタコはポリプス(Polypus)と呼ばれていたことが分かった。
語の意味は「たくさんの足」。これもギリシア語から来た言葉のようだ。
(ついでながら、腫瘤のことを英語でポリプ(polyp)と言うが、これも同語源である。)

たとえばプラウトゥスの喜劇『綱引き』の1010行目にこの語が見られる他、アピキウスの『料理帳』
第9巻の5にはタコ料理のレシピが載っている。

プリニウス『博物誌』の第9巻の48には、貯蔵庫に侵入して魚を食い荒らした巨大ポリプス(タコ)の話が載っている。
猟犬で追い詰め、格闘の末なんとか捕らえたが、それは頭が390リットルの樽くらいもあり、足は9メートルほどで
人の両腕で抱えきれないほど太く、吸盤はまるで鉢のよう、重さは約230キロもあったという(・・・ホントか?)

タコは古典時代だけでなく中世期にもまだポリプスと呼ばれていたようで、
たとえば13世紀のトマス・アクィナスの著作の中にも、たった一箇所だけだが、
ポリプスという語でタコが登場する(『形而上学註解』VII, 14, #1597)。

ところで、「ルイス&ショート羅英辞典」には、ポリプスの説明として
セーピア・オクトポディア(Sepia octopodia)という語が書かれている。
セーピアとはラテン語で「イカ」のことなので、セーピア・オクトポディアとはつまり、「8本足のイカ」である。

イカも古代ローマで、普通に食べられていたようだ。
アピキウスの『料理帳』にもイカ料理のレシピが載っている(第9巻の4)。

イカだけでなく、イカの墨もセーピアだ。
この語も英語に入っていて、英和辞典を引くと、sepia は「イカ墨」とある。

セピア色のセピアは、実は「イカ墨」のことだということを、今回初めて知った。
イカ墨から作られた絵の具がセピアなのだ。

イカ墨は古代ローマ時代、文字を書くインクとしても使われていたらしい。
ペルシウス・フラックス(AD 34-62)の『風刺詩集』(Saturae)I, 13に、次のように書かれている。

 「また小言だ。インキが濃すぎて、ペンにくっついて書けやしない。水でうすめれば、
 今度は色がすっかりうすくなって、書けばぽたぽた落ちてしみばかり。」
(湯井壮四郎訳)

ここに出てくる「インキ」がセーピア(sepia)なのである。

そう言えば、イタリア料理にイカ墨スパゲティというのがあるが、古代ローマにもあったのかなあ?


いやタコのおかげで、いろいろと勉強になりました。


セーピアのにぎり、いかが。



≪10月31日≫

南山大学の大学祭 NANZAN フェスティヴァルが今年も始まった。
今日から4日間に渡り、キャンパス全域がお祭りだ。


今年のテーマはHANABI(花火)
皆で助け合い、協力し合って、空に輝き人々を歓喜させる花火のように
この大学祭を打ち上げよう!という思いがこめられているらしい。

今日は暖かな良い天気。
大いに盛り上がってください。


これは開始直前の正門付近。
開催は毎日朝10時からです。


写真部は今回も写真展を開きます。
会場はF23・24。建物の中です。


ぜひどうぞ。




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