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教員エッセイ

自販機大国ニッポン

2007.07.16 石田

先日、ン十年ぶりになるでしょうか、コカ・コーラを買って飲んでみました。青春の味(?)でした。いま、必要があって自動販売機について調べているのですが、実は日本は世界に冠たる自販機大国で、このように発展させた功労者(あるいは、環境論者からすればエネルギー浪費の元凶)がコカ・コーラなのです。70年代の初頭、コカ・コーラは世界130カ国で合計1日1億本を売っていたそうですが、同社は原則として「製造販売に使用する一切の資材器財を現地調達」する主義をとっていて、しかも、買い入れる自販機については厳格な認定制度で選別し、安易な機械の製造を許さなかったことから、すぐれた自販機が開発・製造されることになったのだそうです(鈴木隆 2007 自販機の時代 日本経済新聞出版社)。

記録で辿ることのできるもっとも古い自販機は紀元前215年に数学者のヘロンという人が考案した、古代エジプト寺院の「聖水自動販売機」だったそうです。しかし、これは原理を記した設計図が残るのみで、実物は確認されていません。実在が確認できる最古の自販機は、産業革命後の1822年、Richard Carlile という人によってイギリスで発明された「書籍」の自動販売機です。日本における最初の自販機は、1888(明治21)年、東京・浅草の小野秀三という人物が発明した「銅貨ノ定量ニ依リ機械ヲ運転シ物品販売ノ用ニ供」するためのものでした(鷲巣力 2003 自動販売機の文化史 集英社)。 

これ以来、タバコ、切手・はがき、酒、菓子、鉄道乗車券などの自販機が創案・工夫され、都市の各所に置かれるようになったのですが、本格的に普及したのは1950年代後半から始まった高度経済成長期以降です。

日本自動販売機工業会のHP(http://www.jvma.or.jp)によれば、自販機の普及台数は1970年代前半から急増し(大阪万博がきっかけになったと言われています)、84年には500万台を超えましたが、その後は緩やかな増加に転じ、飽和状態に達したために90年代に入ってからはほぼ横ばいで推移しています。2006年末時点における自販機および自動サービス機(自動両替機、自動写真撮影機、コインランドリー、パーキング・メーターなど)の普及台数は、対前年比98.8%の551万余。販売される商品・サービスによる機種でみると、飲料自販機が48.2%ともっとも多く、次いでタバコ自販機が10.3%で、これらだけで全体の約6割を占めています。

自販機による売上高(自販金額)は2006年の場合、約6兆8300億円にのぼり、これはナント全国のコンビニエンスストアの全売上高に匹敵する金額であるといいます。確か、日本の全百貨店の売上高総計もこのくらいですから、いかに自販機の売上高が膨大であるかがおわかりいただけるでしょう。自販機普及台数世界一のアメリカ(2005年末時点で782万台)でも、年間の自販金額は5兆5250億円ですから、国民1人当たりでみると日本人はアメリカ人の約3倍の品を自販機で購入している勘定になります。

ところで、人類が交易を始めてこのかた、モノの売り買いは人と人との対面的コミュニケーションを必然としてきましたが、自販機はそのあり方をまったく変えてしまいました。かつてスーパーマーケットの出現は、対話を不要とする商取引をもたらし、自販機はさらに対話だけでなく対面することもなしに、買い物を可能にする社会を招来したのです。あちこちに置かれた自販機は、確かに便利ではありますが、この便利さと引き換えに私たちが失ったものはないのか?、というのが目下の関心事です。

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