レポートを書き始める前に

 

 私は,簡単なレポート課題は出しません。ここで言う“簡単な”というのは,課題を聞いた時点で頭の中にストーリーが浮かんでくるようなものと考えてください。別の言い方をすれば,「何をどう書けばよいのだろう」と悩んでしまうようなものということです。だから学生には,「もっと分かりやすく出題してください」と言われることもありますが,私がレポート課題に与えている意味付けからすると,このような要求には応えられないのです。高校までは問題の意図を正確に読み取り,正確に答えることが重要視されてきたのかもしれません。もちろんこれは重要なことですが,レポート課題では問題の意図が一点ではなく,多少の範囲を含んでいます。その範囲の中での選択権を課題に取り組む人に与えていると言ってもよいでしょう。私は,その範囲を比較的大きくとった出題をします。それは,与えられた範囲の中でレポートの執筆者がどのような動きをするのかも見たいと考えているからです。
 でも,やはり考えるヒントみたいなものがあった方がいいのかなと思ってこれを書くことにしました。一つの参考にしてください。

■ 字数から考える・字数を考える

 私はレポート課題を出すとき,字数を指定する場合もありますし,指定しない場合もあります。偶然や気分で指定したりしなかったりするわけではないので,もちろんここでもなぜなのかを考えてほしいと思います。
 出題者の意図から言うと,まず少ない字数指定の場合は,コンパクトにまとめる力を試してみようと意図することが多いと思います。だらだらと書き連ねると長くなるだけの情報量を書き手が持っている,もしくは調べればそれくらいのことはすぐに手に入る,といった状況で使うことが多いです。なので,短い指定だからと言って資料収集をサボると,まず良い評価にはならないでしょう。短いゆえに多くの情報量を集め,コンパクトにするという姿勢が問われると思います。
 次に字数が多い場合,例えばレポート5枚とかといった場合ですが,これはそれだけのことを調べてこいと言っているようなものです。また多様な資料があってコンパクトにはまとめにくい場合(まとめると意味が無くなってしまう場合)にも長い指定をする場合があります。小手先の知識だけを使ってだらだらと書いても内容の薄いものにしかなりません。引用の上手下手も見えてくると思います。節の構成にも注意する必要があります。
 字数指定の無い場合,もしくは最低ラインが決まっている場合ですが,これが一番書きにくいかもしれません。字数から出題者の意図を探ることが難しいからです。ですので,字数指定が無いから書きやすい(もしくは,短くてもいいんだ!ラッキー!)と思っている人は要再考。私の場合は,字数指定をしないということは長くなる可能性が十分にあり,上限を定めたくない場合に使います。だから字数指定の無い場合に,800字とか1000字程度で出てきたレポートはほとんど評価しません(ごくまれに短くてもいいなと思うものも出てきますが)。内容が薄すぎる,もしくは言葉(説明)が足らなさすぎる場合がほとんどだからです。だからといって多すぎるもの考えものです。レポート内容に対して,必要十分な字数になっているかという基準で自問自答してください。

■ 読み手のタイプを考える

 ちょっとタイトルが上手くないような気もしますが,汎用性のある観点だと思うし,私のスタンスを知ってもらうにもいいかなと思っています。みなさんがテキストを読むとき,もし途中でわからなくなったら(使われている言葉の意味がわからないとか,論旨を追うことができなくなった,とか),以前のある部分を見返したり,わかっていたところまで戻って読み直すことと思います。また,そうするように教育されてきたと指摘することもできます。この前提は,その文章は誰が読んでも理解可能なものであるから,読み方さえ正しければ理解できる,というものです。しかし,皆さんが書いたレポートの場合はどうでしょう。レポートを読む者が,そのような前提のもとに読んだり,評価したりすると思いますか?
 自分の書いたものを,どれくらいの時間を割いて読んでもらえるのか,力を入れて読んでもらえるのか,ということは書き手と読み手の関係によって決まります。この点も,レポートを仕立てる構成に関係してきます。私はというと,論文指導の場合を除けば,基本的にレポートは読み返しをしません。始めから終わりまで一通りしか読まないということです。途中で理解できなくなったからといって,読み直すことはまずありません。低い評価をするだけです。
 このようなスタンスで文章とつきあっているため,私が文章を書くときも,そのように読まれるだろうことを意識して書いているつもりです。注意点とすれば,複雑な構成を避けるとか,指示語と指示される語はできるだけ近くに置くとか,離れる場合は同じ内容を繰り返すとかといった基本的なことが考えられます。このほかにも様々な工夫が考えられると思います。どう読まれるのかということも,ぜひ考慮に入れてください。