これまでのレポートについての評価など

 

 これまでに,いろいろなレポート課題を出し,評価をしてきました。でも,なかなか上手くなってくれないなあというのが正直なところです。しかし,これは考えてみればあたりまえのことで,私は変わらずに授業をやっていますが,毎回毎回受講生は替わっているのですから,受講生が替われば作文力もまたふりだしに戻ってあたりまえなのです。
 でも,年を重ねるごとに,ふりだしではなくて,1進んだところくらいに戻るようにはならないだろうかと考えて,こんなページを作ってみることにしました。前の受講生たちがどのようなレポートを書き,それに対して私が何を感じ,評価をしたのかを参考にできれば,1進んだところくらいから次の受講生たちの作文力が進んでいくのではないかと,多少甘い考えをもっています。さて,どうなるでしょう…

■ 2003年度秋学期 発達心理学B 中テスト

 「大学生活と○○とアイデンティティ」というタイトルで,大学から来年度の新入生向けパンフレットの原稿依頼を受けたとする。○○の部分には,以下のAからEのうち任意の1つを選んでよい。
 そのタイトルで執筆するにあたり,重要なキーワードを3つ設定した後,それらのキーワードを含む800字程度の原稿を作成せよ。(語調は「である調」。原稿用紙の利用ルールに従うこと。)

内容
  A.恋愛 B.友人 C.アルバイト(もしくは就職活動) D.価値観 E.時間的展望

 春学期のリベンジの意味もあって,同じような形式の出題をしてみました。内容的には,春よりも書きやすいものにしたつもりです。ABCとDEのように,少し系統の違うものを並べてみたし,想定読者を後輩にしてみました。そのためか,それともこれを見た学生がある程度対応をしていたためか,春よりはマシというのが全体的な出来でした。逆に言えば,悪いものが目立ってしまったという感じでもあります。しかし,いくつか「難しい」とか「やめてほしい形式」というアドバイス(?)も聞こえてきました。考えておきますが,今後も使ってみたい形式ではあります。
 気に入っている理由は,(1)訴求力を持った内容や文章を書く力が見られること,(2)授業の内容をどれだけ消化できているかを見られることです。後者は違う形式でもいけそうなのですが,前者はこんな形式の方がはっきり出てきて面白いです。
 さて今回のお題は「大学生活と○○とアイデンティティ」だったのですが,字数が極めて少ないとかは置いておいて,低く評価したものには特徴があります。それは「大学生活と○○とアイデンティティ」ではなく,「大学生活と○○」といった内容の回答になっていたものです。タイトルに「アイデンティティ」が入っているのに,文章には一度もその言葉が出てこない,もしくは触れられないというのは,出題意図を十分に理解できていないか,授業内容をうまく消化できていないと考えられます。なので,このようなものは低い評価としました。
 逆に高い評価となったのは,きっちりと構成ができているかどうかというところの判断になりました。概念間の関連はわかりやすいので,それなりの構成はほどんどの人ができていました。それなりをどのように越えているのかが普通と良いの分かれ目になったようです。やっぱり構成力は重要ですよ。

■ 2003年度秋学期 発達心理学B 第2回レポート

題目:「人の発達と仕事」(サブタイトルは任意)
フォーマット:A4用紙2枚。ワープロで作成のこと。

・人間の発達において仕事がどのような影響を与えるものなのかをじっくりと考えて書くこと。内省にデータを求める。
・「仕事」の意味合いはjobという意味でも,workという意味でも,どちらと解釈してもよいが,どういう意味合いで使っているかはわかるように書いておくこと。
・今回は,特に構成の観点から評価する。

 書きやすいだろうなあと思って出題したのですが,結果はそれほどかんばしくなかったというのが正直なところです。何でだろう?? かんばしくないというよりは,よくできたものが少なかったと言ったほうが正確かもしれません。「並」が多くて,差がつきにくかったというところです。
 もう一つ,傾向的にいつもと違ったところがあります。通常,学年が上がるほど良いレポートが多くなり,心理人間学科生の方が他学科生よりも少し良い,という傾向があります。そうでなければ,困るのですがね。でも,今回は他学科生に良い評価になったレポートが多く出てきたように感じました。
 今回の場合は,知識を駆使して,という手段が使えないものです。日ごろの考えや,経験がどのように自分の中に入ってきているかということの方が結果にあらわれたのではないかと感じています。うまくまとめられているものには,アルバイト先などでの経験を基にしたものが結構ありました。読んでいて,「ある人がこう言っていた」というような素材よりも,「私は経験からこう実感した」という方が文章や内容にふくらみがあるし,説得力も強いと感じます。もちろん読み手が理解できるように,経験からきちんと結論が導けていることは前提ですが。
 経験だけ書いてあったり,「私はこう思う」一辺倒だったりしたものは,きちんと構成ができていても,それ以上の評価にはしませんでした。つまり,悪くはないけど良くもない,という評価です。個人の経験自体は評価できないし,根拠の無い,もしくはうすい主張も評価できないのです。「内省にデータを求める」としましたが,経験を咀嚼して,分解して,吸収した結果のみを書かれても,読み手には伝わりません。構成の時に,言いたいことを伝えるためには,落としてはならない部分があることにも注意しておいてください。

■ 2003年度春学期 発達心理学A 中テスト

 以下のような主旨で,ある高校から保護者向けのパンフレットの原稿依頼を受けたとする。以下のAからEの内容のうち1つを選び,重要なキーワードを3つ設定した後,それらのキーワードを含む800字程度の原稿を作成せよ。適当なタイトルもつけること。(語調は「である調」。原稿用紙の利用ルールに従うこと。)

主旨
 発達の基本的な事項の理解を通して,我が子の発達の程度を客観的に把握し,望ましい方向へと導く親としての資質育成に寄与するような原稿をお願いしたい。

内容
  A.道徳性 B.性・性行為 C.職業意識 D.友人関係 E.親子関係

 出題者が出題にこりすぎたのか,ひねりすぎたのか,はたまた学生の勉強不足なのかは定かではありませんが,正直に言って,ボロボロでした。ため息連発で採点をしていたのですが,もちろん中にはいいなあと思わされたものもあります。その大きな差をつくったのは,おそらく論点の絞り込みだと思われます。
 もちろん,3つのキーワードが出だしの300字くらいのところまでですべて出てきて,半分いかずに終わっているようなものは,絞りすぎたのではなく,思いついたキーワードを3つ並べただけという感じだったのではないでしょうか。絞り込むということは,800字では書ききれないだけの内容を持っていて,そこからおさまるだけの分量にしていく作業です。今回,字数が書けなかったという人は,授業で何をやったのかを思い出し,整理しておいてください。
 何せ今回は800字しかありませんから,相当に絞り込まないとまとまりきらないと思います。800字なので,段落構成から考えたほうがすっきりいったかもしれません。字数的には,3段落構成から5段落程度が妥当でしょう。最終段落をまとめの段落にするとすれば,2段落から4段落が残る。設定したキーワードの特徴から,残りの構成をどのようにしていくか,という発想から内容の絞り込みを考えることがすっきりいくやり方だったのかもしれません。
 レポートを書く時のアプローチの仕方は様々です。その時に求められていることが何なのかを判断し,そこに近づくために,どのような順で考え全体像をつくりあげていくのか,ということにも配慮してほしい(配慮できるようなスキルを身につけてほしい)と思います。

■ 2003年度春学期 発達心理学A 第2回レポート

題目:「発達と学校教育」 適当なサブタイトルをつけること
フォーマット:A4用紙3枚以上4枚以下(資料は別)。ワープロで作成のこと。
この授業では特に取り上げていないが,発達と学校教育(小学校〜高校)についてまとめること。
発達の一つ,もしくは二つの側面に着目し,その側面の発達に学校教育がどのように影響しているかをまとめること。資料があると,なおよい。
なお,学校教育の影響については,望ましい影響,望ましくない影響の両方を考えること。

 こういう形式が一番書きやすいのでしょうかね。全体的に,ある程度のものができていると感じました。逆に言えば,ある程度までいっていないものは目立ってしまうという感じでした。ただある程度ではあるものの,資料を集めてきて,くっつけて終わりという程度のもの,また資料が自分のものになっておらず,資料に振り回されたという感じのもの,資料に振り回されて目的地が変わってしまったようなものが極めて多かったということも特徴でした。
 今回ポイントとして見ていた点は,もちろん「発達と学校教育」のかかわりについて,発達に学校教育がどのように影響しているかという観点で書いてあることと,望ましい/望ましくないの両側面(もちろん,どのような基準から望ましい/望ましくないとするかという個人の価値観については評価に含めていません)からコメントがされていることです。そういう観点から見ていて非常に気になったのは,「学校教育」についてと求めたのに,「学校」もしくは「教育」の切り口をとっていたものが多かったことです。「学級」などを取り上げる場合でも,「学校におけるクラス」ととるのと,「学校教育におけるクラス」ととらえるのでは,ずいぶんと位置づけや意味が変わってきます。またレポートの中で,あるところでは「学校と発達」で,違う部分では「教育と発達」といったように切り口が変わっているもののありました。しっかりと書いてあるけど,これはいったい何のレポート?という感じのものが多く出てきたのです。
 皆さん(と,一まとめにしては良くないのですが)は,資料に合わせて文章を作ることは,下手ではありません。多分,資料を与えて,それを使ってレポートを作れというと並以上のものがつくれるのだろうと思います。これは,そういう訓練をしてきた成果ともいえます。試験室の中で,与えられた課題にとりくむという状況で書くものです。しかし,これは高校までのもの。もう少し悪い言い方をすれば,入試対策用の訓練です。自分で資料を集めて書くという場合には,それとは全く違った書き方をする必要があります。
 資料は探せばいくらでもある領域だし,実際に複数の資料を引用・参考にしている人が多くいました。つまり書こうとすればいくらでも書けるのです。そんなときには余計に注意してほしいと思います。資料は資料です。資料に合わせてレポートを作るのではなく,レポートに合わせて資料を選ぶのです。そうしないと,とんでもない方向に行ってしまいますよ。

■ 2003年度春学期 発達心理学A 第1回レポート

題目:「道徳性と世代差」
フォーマット:A4用紙2枚(ただし表は別)。ワープロで作成のこと。
・道徳性の世代差をインタビュー結果から検討する。
・自分と世代の違う誰かにインタビューし,どのような点が同じで,どのような点に世代差があるのかをまとめる(表にする)。
・それぞれの道徳性の形成要因を推測し,その差異を作り出しているものを丁寧にまとめる。

 はっきりと方向性を出したつもりですし,また授業中に追加説明も行ったので,注文を大きく外したものはごくわずかでした。出題前には,いくら表は別に作っても,A4で2枚というとかなり窮屈な字数になるだろうと予想していました(1枚とちょっとで終わっているようなものは,ほとんどが内容不足です)。さらに,「丁寧にまとめよ」という指示も出しましたので,ここらあたりのさばき方も注目点としていました。それと,これは予想していなかったことですが,世代差の方へ重心がかかりすぎ,道徳性が見えなくなってしまっているように読めるものも結構ありました。途中でポイントを見失ってしまったのか,最初からポイントを見失っていたのか…?
 採点を終えて,差を生じたポイントは,ある程度はっきりとしていたと感じます。一つは「出だし」。いきなり結果に入った人もいましたが,これは無理がありすぎです。自分がどのようにポイントを絞って調査をしたのかなど,ある程度は説明が不可欠でしょう。もちろん,ここで字数を使いすぎると後が大変になってくるのですが…。それで困ってしまったようなものもありました。
 もう一つの大きなポイントは,得られたデータをどれだけ「丁寧に」扱えたかということです。多くの場合では,道徳に対する意識に差があった面もなかった面もあるデータですから,なぜ違いが生まれているのか,もしくはなぜ生まれていないのかというところへ言及が進んでいくのですか,ここをどの程度丁寧に組み立てられたかが分岐点となりました。「えっ?」と思うような大胆な(というか飛躍した)解釈はもちろんですが,「それで終わりなの?」というようなものも評価していません。
 もちろんこのあたりは,採用した手法によっても限界が規定されます。面接なら,どの程度本質を聞き出せたのか,質問紙併用なら,どの程度の情報を得られる項目を準備したのか,によって決められる部分も多いです。データ収集というプロセスも大事にしておかないと,今回のレポートは辛くなったと思います。ネタの仕込みの仕方の問題と言っていいでしょう。
 結局は料理と同じで,まずはどのようなレポートを書こうかと考え,それに適した仕込みを行い,丁寧に扱ったものがよい評価につながるということが顕著に出たと感じます。基本が大事ということでしょうかね。

■ 2002年度春学期 発達心理学A 第2回レポート

題目:「子どもの自立に関する親の意識変容」
●身の回りの誰か(自立したと感じている子どもを持つ親:1名でもよい)をつまかえ,子どもの自立(青年期における)に関する親の意識の移り変わりをインタビューし,まとめる。以下の点は必ず含むこと。
・子どもの自立を自覚したきっかけ
・その時の気持ち
・それ以後の子どもの変化,親の気持ちの変化を追いかける
●親子関係の発達的変化とからませると,なお良い。

 サンプルになる論文を先に渡してあることもあり,質的には比較的納得できるレベルで均質になっていました。勝負は,課題の意図の理解と分析の視点だったかなと思います。
 ちょっと混乱したかなと感じるのは,課題について,「3つのポイントを含みながら移り変わりをまとめる」ではなく,「3つのポイントをまとめる」というふうに解釈してしまったのではないかというレポートがあったことです。これを読んだらはっきりとわかると思いますが,3つのポイントは特に着目しておくべき点であって,それについてまとめることが目的ではありません。それらをまとめて「移り変わり」という発達的側面をまとめることを求めたのです。どこまでこの意図を解釈して課題に取り組みはじめたかで,一つのレポートとしての完成度に差が出てきたように感じました。
 そして次の段階が,移り変わりの様子がはっきりとわかるように表現できているか,それを明らかにできるような上手な質問ができたか,上手にまとめられているかどうかという点になるかと思います。相手は一人の人ということで,当たり前のように連続性があると仮定するのですが,そこには大きなターニングポイントがある場合もあるし,徐々に徐々に変化する場合もあります。「最初はさみしかったのだけど,時間がたてば感じなくなった」というような言葉が出てきたときに,どのようにそこに切り込んで質問ができたのか,などという点が移り変わりを鮮明にしたり,そうでないものにしたりするポイントになると思います。指定されたからといって,3つのポイントだけを質問したのであれば難しかったと思います。
 ここまでで材料の収集が終わり,あとは分析をするということになってくるのですが,それに役立つかなと思って,授業で示したような「親子関係の発達的変化とからませると,なお良い」と指示しておきました。これを使えたら,理論とサンプルの異同についても言及できるし,サンプルが留まっている段階や,今後の方向性についての推測も可能になるだろうと考えたからです。うまく乗れた人もいますし,サンプルについての感想だけで終わっている人もいました。1サンプルだけなので,どこまでそのケースの結果を一般化できるのか,またそのサンプルの特殊性はどこにあるのかなどまで進んでくれていたら,こっちとしてはうれしかったのですが…

追記:私の方でのまとめですが,やってほしくないという人は少数だったのでやってみようと思います。データ提供数からは数値での分析は難しいようなので,私が読んで感じた点を簡単にまとめてみようと思っています。

■ 2002年度春学期 発達心理学A 第1回レポート

題目:「現代社会が道徳性におよぼす影響」
フォーマット:字数制限なし。A4用紙,以下のような流れで,ワープロで作成のこと。
1.道徳性・向社会的行動(の発達)に何が影響しているかを述べる(文献にあたって調べること:理論レベル)
2.その“何”に該当するものの代表例を現代社会の中から取り上げる(理論を具体レベルへ翻訳)
3.代表例について具体的に述べ,それが道徳性などに与える影響をまとめる(理論レベルを踏まえた具体レベルでの説明)

 はっきりと「こう書いてくれ」と指示を出しました。ということは,この指示にしたがったフォーマットで書いていなければ評価が下がるということになります。多くのレポートはこのフォームに沿っていたのですが,注文が通っていなかった人もいました。
 さて,今回は長さの指定はしませんでしたが,取り上げた内容によって長さが決まってくるような課題です。ピンポイントで取り上げれば,そこだけに集中して書けばよいので,それほど長くなくても必要十分なものをまとめることができます。逆に,ピアジェの理論などを大きく取り上げると,それなりの文章量が必要になってきます。大きく取り上げて文章量が少ないというのは,企画の段階から問題ありと判断しました。このあたりに意識が向いていれば,1と2および3の整合性がとれたものになると思います。
 このあたりで,かなり無理をしたレポートが多く見られました。例えば向社会的行動の背景を広く説明しておいて,いきなり「今回はテレビの影響をとりあげる」などと急に絞ってしまうような書き方です。このような書き方は全てダメというわけではありません。そこに絞り込む理由が書き添えられていればOKなのですが,理由も何もなく絞り込まれると,読んでいる方は,その急展開についていけなくなるのです。そして「何でそう絞り込むの?」という疑問がわいてくるのです。1,2,3という流れが不自然でなく続いていることも評価の点となりました。
 もう一つ大きなポイントとなったのが,理論レベルと具体レベルの整合性です。内容的には2の理論を具体レベルへ翻訳するときに,おそらく個々人の「思い込み」が影響したのだと思いますが,大きな飛躍,言い換えればズレが生じてしまったものも見受けられました。例えば,道徳性の発達についての理論的知識と,自分の中にあった「親子関係が問題だ!」などという強い思いが,うまくまとまらなかったというような感じをうけるレポートです。ただこの点は,思いによって思考が飛躍した結果なのか,思考は飛躍していないけれども,それを説明するだけの文章力がなかった結果なのかは判断できません。もしかすると,「何で?」と追加説明を求めれば,すっきりした説明がなされるのかもしれませんが,レポートは書かれている文章のみで勝負するものなので今回は(も?)クールに評価しました。
 あと,「○○(書籍)に『●●には友人関係も影響しています』と記してあったので…」というフレーズを使ったものも多かったのですが,これにひっかかった場合は難しかったと思います。なぜなら,「なぜ●●に友人関係が影響しているのか」が不明なまま論を進めなければならないからです。このまますすめると友人関係のどのような側面を取り上げればよいのか,どのようにあつかえばいいのかがが不明になり,結果として漠然としたレポートになりがちです。ラッキーと思って飛びついた人もいるでしょうが,書籍の記述にそのまま乗ると余計に難しくなってしまうこともあるので注意しておいてください。