南山大学哲学セミナー「盲視(blindsight)研究の最前線」

セミナー主旨:

脳と意識の関係をめぐる問題は、近年、哲学だけではなく、神経科学や認知科学などでもさかんに研究されています。現在では、この問題を考えるうえで、経験科学の最新の研究成果を無視することはできません。そのなかでもとくに興味深いのは、本人はものが見えていないと主張するにもかかわらず、ものの位置や動きなどを判別することができるという、盲視(blindsight)の症例です。本セミナーでは、霊長類などを用いた盲視研究を行っている若手神経科学者の吉田先生をお迎えして、盲視研究の歴史、最新の研究動向、意識の問題への示唆などについてお話ししいただきます。

日時:2011年1月20日(木)17:00〜19:00

場所:南山大学名古屋キャンパス第1研究棟4階415号室

講演者:吉田正俊(自然科学研究機構生理学研究所発達生理学研究系助教)


報告:

講演では、まず、盲視とはどのような現象であるかということと、それが、視覚に関わる脳内メカニズムがどのように損傷することで生じるのかということについて説明があった。次に、これまでの症例研究に基づいて、盲視患者は何をできて、何をできないのかということについて、詳しい説明があった。また、盲視患者は、何かが生じていることに気付いている場合とそうでない場合があるということが紹介された。さらに、吉田先生ご自身の研究として、モデル動物(サル)を用いた実験の内容が紹介された。最後に、考察として、どのような意識経験が生じるかに関しては、感覚入力が重要な場合と脳の活動が重要な場合があるというHurleyとNoeの議論に依拠して盲視患者の経験を理解する可能性が論じられた。

講演を通じて、参加者と活発な質疑応答もなされた。参加者からの質問には、盲視患者の能力の詳細に関するもの、盲視という現象をどのように理解すべきかということに関するもの、脳損傷によって生じる他の失認症などとの関係に関するものなど、さまざまなものがあった。

講演と質疑応答からは、意識の問題についてさまざまな疑問や課題が明らかになった。その中で、報告者の関心からとくに重要と思われたものは以下の通りである。①盲視患者は意識経験を有しているがそれを自覚していないという仮説と、意識経験を持たないにもかかわらず刺激に反応できるという仮説のどちらが正しいかを決定できる実験デザインは可能か?②盲視患者が(ときとして)有するawarenessとはいかなるものであり、それは現象的意識とどのような関係にあるのか?③盲視だけでなく、視覚性運動失調、視覚失認などの多様な視覚に関わる失認症を統一的に理解できる意識の理論は可能か?これらについて検討することは、本研究プロジェクトの今後の課題となる。

(報告:鈴木貴之)


追加情報:

吉田先生のブログに、講演に関連するエントリーが掲載されています。講演後半部分の議論がくわしく紹介されています。

講演内容にかんするスズキの覚え書きはこちら