とがった高い山を下りて砂漠や岩山や雪の中を歩き続け、王子は、今度は5千本ものバラが咲き乱れている庭に入りました。それは星に残してきた一輪のバラとそっくりの花たち。「私たちはバラですよ」と答える花たちを前にして、王子は言葉を失います。「Ah !」。自分のバラを「特別」と思っており、実は、それが「普通」ものだとわかったときのショック。「ええっ、そんな!」「まさか!」。
成長のプロセスの痛み。自分の父親あるいは母親が「世界一!」だと信じている幼い子どもは、成長するにつれて、両親も「普通の」人間であったと気付きます。これが、反抗期と重なる場合は、確かに辛いものがあります。それでもそこは終わりではないようですよ。もうしばらくすると(自分が両親と同じような歳になると)、欠点や短所や失敗ということも含んで、彼らが自分を生み育んでくれた「かけがえのない人たち」であったことに気付いて、別の意味で「世界一!」と言えるようなときがやって来ます。でも、そのためには、「相対化のプロセス」を経る必要があるようですね
王子は、草むらにうつ伏して泣き出しました。
市瀬英昭
王子は、今度、高い山に登って「住んでいる人間みんな」を見ようとします。そして、とがった岩山の頂から、誰かが答えてくれるのを期待しながら、呼びかけます。「こんにちは」「友だちになってよ」「ぼく、独りぼっちなんだ」。それでも帰ってくるのはオウム返しのこだまだけ。こだまを人間だと勘違いした王子は「人間たちにはまるで想像力がない」と嘆きます。言われたことを繰り返すだけならそれは人間ではない、という思いが王子にあるのでしょうか。同時に、こ・フ・ニき彼は気付きました。自分の星に残してきた「花は自分から話しかけてくれていたのに・・・」。懐かしさと後悔のまじった感情が「・・・」で表現されているようですね。
相手の言ったことをそのまま繰り返すこと。これは、ちょうどカウンセラーがそうするように「私はあなたの言っていることをちゃんと受け止めていますよ」というサインにもなります。その場合は、機械的ではなく、心が込められているはず。「あいづち」のように、大切にされている、と実感させる繰り返しはいいものですね。
市瀬英昭
ヘビと別れて砂漠を歩いていく中、彼は一輪の花に出会います。「人間たちはどこにいますか」。いつも心に持っている願いを口にする王子。花は答えます。「彼らはどこにいるかわかりませんね。風に吹かれてさすらうのだから。人間たちは根がないから不自由していますよ」。
一見、不自由さを思わせる「根を張ること」の人間にとっての大事さが言われているようですね。自分自身の考え方、ポリシーというようなことでしょうか。実を結ぶために、自分らしくあるために、そして、なによりも自由になるために必要な「根」を張ること。
スウェーデンのことわざにあるそうです。
”Break your chains and you are free: Cut your roots and you die”
あなたにとって断ち切るべき「鎖」とは何でしょうか、伸ばすべき「根」とは何でしょうか。ゆっくり考えたい大切な区別ですね。
市瀬英昭

七番目の星「地球」。「七」は神秘的な数と言われます。王子はアフリカの砂漠に降り立ちました。時は「夜・v・Bそこで最初に出会ったのはヘビです。「人間たちはどこにいるの」。分かり合える人間を探している彼はヘビに訊ねます。そして「誰もいなくてさびしい」と言う王子に、ヘビは答えます。「人間たちの中にいてもさびしいものさ」。その後も謎めいた、時々沈黙によって中断される、対話が続きます。
少し不気味な感じのするヘビですが、これまで訪問してきた星の住人たちとは違っていますね。小惑星の住人たちが「自分のこと」にしか興味がないのに対して、このヘビは「君は純粋で、かわいそうで、か弱い」と王子に同情を寄せています。そして、もし自分の星へ帰りたくなったら「おれが手を貸してやってもいい」と。王子の最後を暗示している言葉のようです。
この本のクライマックスの一つである21章のキツネとの出会いまで、王子はヘビに始まり、一輪の花(18章)、こだま(19章)、バラたち(20章)と関わっていきます。
市瀬英昭

六番目の星には地理学者が住んでいました。彼は、自分は書斎を離れず、実際に現地を見てきた探検家の話を聞いてそれを記録する仕事をしているようです。「おや、探検家がやってきた!」・ニ初対面の王子を見て叫びますが、彼も自分の関心の範囲でしかものを見ない人のようです。そして、彼は自分の仕事がもっとも大事で地理学の本がもっともまじめな本だと信じています。「永遠に変わらない物事」にしか興味のない学者の口から、王子は、自分の「花」は「はかないもの」で「近いうちに消えてなくなる恐れがある」と聞かされます。そして、その花を自分の星に一人ぼっちで残してきたことを初めて後悔します。地理学者にとってはかない存在こそ王子にとってかけがえのないものだと気付いたからでしょうか。
次の訪問先についてアドヴァイスを求めた王子に地理学者は「なかなかの評判だから」という理由で「地球」を勧めます。地理学者の知識がここで役に立ちましたね。「はかない」の意味と地球の価値を王子は彼から学びました。
さて・A七番目の星は、少し離れたところから見ると、素晴らしい眺めの「地球という惑星」です。そこでは、一体どんな出会いが待っているのでしょうか。
市瀬英昭
