能のお話

●能の演目パターン

 能の演目約250もあります。演目とは劇とほぼ同じ意味ですが、 劇の中に舞いが入ったものが演目だと考えるのが妥当でしょう。
 「能」が出来た当初は次々に新しい能の話がつくられてましたが、 それらの数が多くなるにつれて話をパターン化するようになってきました。そして、そのパターンが5つに分類され、その分類は今日に至るまで残っているのです。

さて、それでは5つのパターンの特徴を見ていきましょう。
5つのパターンは主人公(シテ)の種類別に分類されます。
それらは下の5種に分けられます。

@神

A男


B女


C狂



D鬼

この5種は、次のような呼び名が使われています。

@神⇒脇能物 A男⇒修羅物 B女⇒鬘物 C狂(狂人)⇒雑能物 D鬼⇒切能物


 江戸時代までは能は1日中演じられていました。 能の演目を公演するときには上の5つの種類の物をそれぞれ1つづつ、計5つの演目を1日で上演していたのです。
 そこから、毎回、1日の1番最初に演じられるものを「一番目物」2番目に演じられる物を「二番目物」3番目に演じられる物を「三番目物」4番目に演じられる物を「四番目物」5番目に演じられる物を「五番目物」と呼ぶようにもなりました。

では、この5つをそれぞれ詳しく見ていきましょう!

●5つの能の主な内容

1<脇能物>
※神能物,一番目物とも言う

 神様が主人公で、 彼らが世の中の平和や安全などを祝福します
 日本は、多神教かつ仏教・神道が融合している国なので、

神道・仏教のいろいろな神様が登場します。
(もちろん殆どの話では一演目に一神ですが)

 能の前に演じられる『翁』の左脇に演目の名前が書かれたため『脇能物』と呼ばれることもあります。


演目の例:高砂、
鶴亀、養老、嵐山、老松など 

2<修羅物>
※二番目物とも言う

 能での「男」とは、大概は、武士のことを指します。
 しかも、その武士とは、平安時代末期に活躍した平家・源氏の武士たちがほとんどです。
 武士たちの仕事は戦をすること。
 戦では人を殺すこともあります。
 仏教の考え方では、人を殺してしまった人は、死後は、亜修羅(修羅)という名の地獄に落とされてしまうのです。

 そのため、 平家・源氏の武士たちも当然、死後は修羅の世界に行くことになります。
 そこで修羅に苦しむ武士は生前の世界(現世)に救いを求めます。
 その世界から救われる道は、ただ一つ。 他人(大概は僧)に自分の生涯や心を語ることだけなのです。
そこで、武士は、自分の修羅の苦しみや生涯を語ります

演目の例:敦盛、清経、忠度、経正、屋島など

3<鬘物>
※三番目物とも言う

 女性を主人公とした能。
 ただし、ここでの女性には、人間の美女はもちろん、天女などの美女や性別不明の精霊も含まれます。

女性役は必ず鬘(かつらのこと)をつけるので鬘物と言います。

演目の例:羽衣、熊野、井筒、杜若、吉野天人など

4<雑能物>
※四番目物とも言う

 主に狂女が主人公のもの。
 しかし、医学や心理学が発達した今と昔では「狂い」の認識が違います。少し自閉症ぎみになったり、愛するものへの死別や恋わづらいのために周りを気にしないで人前で苦しむ行為を見せる態度をも能では「狂い」と考えています。
 今も昔も人は愛で苦しむもの。 よって愛をテーマにしたものが大半です。
愛をテーマにしたとも言われている『源氏物語』を題材にしたものもあります。女性は、苦しみの果てに鬼になってしまうこともあり、鬼が登場する能も多いです。

また、一〜三・五番目ものに入らないものも入っているので、雑能物と言われます。


演目の例:三井寺、恋重荷、 葵上、玉鬘、
鐵輪、道成寺、小袖曽我、安宅など

5<切能物>
※五番目物とも言う

 人間ではない生物が主人公のもの。その生物とは、幽霊や天狗・妖怪や鬼(四番目物の鬼は人間が突然変異したもの 。五番目物の鬼は生まれも育ちも純粋な鬼。)で、彼らは別世界から人間界に来訪します。
 そして、人間界でいろいろなこと(善いことをするものも悪いことをするものもいます)をして、最後には自分の世界に帰っていきます。 全体的に豪快で・テンポがよいものが多いです。

 一日の最後(キリ)の演目、という意味から切物能と言われます。

演目の例:殺生石、猩々、土蜘蛛、紅葉狩、船弁慶など