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ルートヴィヒ・ベルネの「三日間で独創的な著作家になる方法」

2016.04.11 岡田暁宜

 

 本タイトルは、ルートヴィヒ・ベルネ(Ludwig Börne)(1786-1837)が1823年に書いた論説、The Art of Becoming An Original Writer in Three Daysのタイトルである。ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)(1856-1939)は、1869年の14歳の時にベルネの作品を贈られて、その作品にのめり込んだようで、50年が経過した後もその書物を大切にしていたという。フロイトは、1920年に国際精神分析雑誌に発表した「分析技法前史について」(A note on the prehistory of the technique of analysis)の中で、以下のように、ベルネの論説を引用している。
 「さて、これらがお約束の実用化である。まず、二、三帖の紙をとって、三日の間続けざまに、嘘や気取りを交えずに諸君の頭の中に浮かんでくることを全部、何から何まで書き続けるがよい。諸君が自分自身について考えていること、諸君の女たちのこと、トルコとの戦争、ゲーテ、フォンクの犯行経過、最後の審判、諸君の上役、こういうことを書くがいい――そうすれば三日後には、諸君は新しい、思いもよらなかった思想を持つようになったおどろきのあまりに、すっかり我を忘れてしまうだろう。これこそが、三日間に独創的な著作家になるための技術なのである!」(フロイト著作集9、人文書院より)
 フロイトが自由連想法を開発したきっかけは、フロイトが1889年に分析していたエミー・フォンN(Emmy von N)夫人の発言であると言われている。フロイトの1920年のこの論文は、フロイトによる自由連想法の萌芽は、フロイトが医師になる遙か以前に既に存在したことを示唆している。ベルネの方法は、自由連想に基づく自由筆記であり、書き手自身の無意識の中に新たな独創的な物語のヒントを見出す方法である。また1924年に「シュルレアリスム宣言」をしたアンドレ・ブルトン(André Breton)(1896-1966)が1919年頃から行っていた自動筆記(Automatism)は、意識の影響を排除して行う筆記の方法であり、フロイトの自由連想法の影響を受けたと言われる。
 ベルネの論説「三日間で独創的な著作家になる方法」というタイトルにある「三日間」というのは、一つの修辞であり「簡単に」という意味の比喩であるが、その内容は、書き手はどのように作品の独創性を創造するかという一つの方法論である。その極意は、書き手の独創性を書き手自身の心の中の無意識に委ねることである。

 本おすすめ情報のタイトルは、ベルネの論説のタイトルであるが、おすすめ情報の内容は、ベルネの方法そのものではない。フロイトがベルネの論説に触れて、国際的な著作家として成功を収めたことには疑う余地はない。しかしフロイトがゲーテ賞を受賞したのは1930年で74歳の時である。フロイトが14歳でベルネの論説を読んでいたとすれば、フロイトが独創的な著作者として国際的に評価されるまでには、60年という年月を要したわけである。私のおすすめ情報は、ベルネの「三日間で独創的な著作家になる方法」は、後に自由連想法や自動筆記を生むことになった大変優れた方法であるが、決して三日間という安易な方法ではないということである。

   

 

 

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