西江 清高(学科長)

 

職名: 教授

専門分野: 中国考古学 東洋古代史

研究内容紹介

 中国4千年の歴史という言い方があります。4千年前というと紀元前2千年です。それはいまわれわれがもっている知識では、黄河中流域にはじめて国家とよびうる政体が登場したときでありました。中国大陸に最初に登場した国家は、古代文献の記載と照らし合わせて、中国の研究者のあいだでは「夏」王朝であると断定されています。その「夏」王朝とも言われる最初の王朝につづいて登場したのが、甲骨文字で知られる殷王朝で、その後に殷を倒して黄河流域を統合した周という王朝がつづきます。これら三代の王朝をあわせて初期王朝とよぶことがあります。因みにこの初期王朝というよび方は、14、5年前にわたしが提案した名称でしたが、最近では世間に定着してきたようで喜んでいます。この中国初期王朝時代は、わたしが今でももっとも関心をよせている研究対象です。
 紀元前3世紀に、秦の始皇帝がはじめて中国を統一した、という説明はどの歴史の教科書にも書かれています。一方、紀元前2千年より以前には、黄河流域や長江流域において発達した初期農耕社会(新石器時代の社会)が展開していたということが、やはり教科書に書かれています。そうすると、殷とか周の初期王朝時代とは、初期農耕社会の発展を基礎として、中国大陸に最初の「中華帝国」が成立するまでの長い歴史過程に相当する、ということができそうです。中華帝国によってまとめあげられた歴史的な個体を、わたしは好んで「中国」的世界と呼んでいます。その「中国」的世界の成り立ちとはどのようなものなのか。あるいは、「中国」というまとまりはいったい何であるのか。そのような問いかけに対して、それがしだいに形をなした時期である中国初期王朝時代を対象として、考古学的・歴史学的・人類学的に調べていくこと、それがわたしの主な研究内容です。このような研究は、一般に文明起源、国家起源の研究といわれていますが、わたしの場合は、その研究に「地域」という考え方を持ち込んでいるのが特徴だろうと思っています。「地域」の考え方では、そこに生活した人々と自然環境とが生み出す多様な歴史的条件をとらえ、その積み重ねの上に国家形成の問題などを考えていきます。また、地域と地域の相互関係をとらえて、そこから一つひとつの地域の歴史的位置づけを考えていきます。
 中国考古学は、国家形成云々といったテーマのほかにも、世界の考古学者や歴史家から注目されているさまざまな大テーマを抱えています。たとえば、農耕起源の問題、初期の民族形成の問題、あるいは日本列島や朝鮮半島を巻き込んだ東アジア世界の成り立ちについての問題などです。これらの問題は相互に密接に結びついていて、その全体を理解しようとすることで、はじめて「中国」的世界への理解を深めることができ、また日本や東アジア諸地域の歴史研究に関して、大きな手がかりが見いだせるものと思います。
 ところで日本人であるわたしにとって、中国はもちろん外国です。外国の考古学を研究する者がよくいわれることは、その国(地域)のことなら何にでも興味をもっていろ、ということです。そうでなければ、本物の外国研究者のようにはいわれません。ある特定の個別的な事象だけに興味を傾けても(集中することはとても大切ですが)、なかなかよい評価は得られないのです。その理由は簡単で、そういうことはたいていは現地の研究者がより詳しく研究しているからです。そこでわれわれは、外国人という不利を逆手にとって、現地の人がもちえないような醒めた眼差しをもって、より自由度の高い視点から対象を見つめるということが重要になります。たとえば現地の人たちが当然の常識と思って気にもかけていない事象に対して、好奇心と懐疑の眼差しをもって再検討してみるという姿勢が、ときに大きな発見を生むことがあります。外国考古学の研究者には、外国人にしかできない新たな問題の掘り起こしが求められているということです。わたしは以前、中国の「老師」から、おまえには研究者としてそういうものを期待する、といわれたことがあります。外国考古学を専攻していると、このように、いつも異文化に対して感性をみがいていなければいけないという一面があるわけです。楽しくもあり、ときには辛くもあります。
 これを読んでくださっているみなさんと、もし将来一緒に中国やその他外国の考古学・歴史学を勉強する機会があるならば、そのときわたしはみなさんに、可能なかぎり旺盛な好奇心をもち、そしてひとたび目標をさだめたならば、徹底的に集中力を発揮するという姿勢を期待したいと思っています。

自己紹介:
 週末にはよく子連れで伊勢湾周辺などをドライブして見てまわっています。スキューバダイビングが好きで、沖縄やミクロネシアや、その他南海の諸地域にもときどき出かけます。そこで最近、好きな海と、研究対象の中国とを結びつけて、「中国」的世界の海洋的性格、というのをひとつの研究テーマにしようともくろんでいます。この考えを話すと、関係者からはいつも冷ややかな目で見られてしまいますが、実は上記したように、これこそが中国の「中心」にいる人たちに欠落した視点といってよいものなのです。ついでに言うとわたしは、山地の歴史や林業史、あるいは鉱業史などにも関心があります。膨大な農耕民と皇帝による一元支配、一元的文化世界としての「中国」という歴史理解が行き詰まっている今日、外国人としての中国考古学・中国史研究の大きな役割は、「周辺的」視点の模索ということにあるのではないでしょうか。 

email: nishie@nanzan-u.ac.jp

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