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第9回社会倫理研究奨励賞

第9回社会倫理研究奨励賞

2016年2月5日に行なわれた第9回社会倫理研究奨励賞選定委員会における厳正な審査の結果、下記論文を受賞論文と決定いたしました。

  • 受賞論文 「依存行動への責任を限定する
           ―レヴィの自我消耗仮説と規範的統制原理の適用可能性―」
  • 【掲載誌名】『倫理学年報』第64集、189-202頁、2015年3月30日
  •  著者  佐々木 拓(ささき・たく)

受賞論文 講評

野家啓一(第九回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)

本論文は依存症患者の責任帰属をめぐる問題に焦点を合わせ、従来の「道徳的行為者モデル」と「病気モデル」との二項対立を克服し、著者独自の「規範的統制原理適用可能性アプローチ」を提起しようとした意欲作である。著者は依存行動について最近の研究動向を踏まえながら、責任帰属という実践に関して法的視点と医学的視点の両者を視野に収めつつありうべき解決策を模索している。とりわけ、N.レヴィの「自我消耗仮説」を背景に、依存症患者の実態をより的確に反映した新たな帰責モデルを提起した点は高く評価できる。著者が提起する規範的統制原理とは、人間の行動を適切に理解するために必要不可欠な概念のことであり、たとえば「自由意志」がそれに相当する。責任帰属の実践は「規範、賞罰、帰属条件」という三項目だけでは完結せず、そこに自由意志を基盤とした統制原理としての人間像が関わっているという指摘は著者のオリジナルな功績である。本論文は学術性とアクチュアリティの両面においてすぐれた考察を展開しており、社会倫理研究奨励賞にふさわしい業績と判断される。ただ、規範的統制原理の適用条件の議論において、自由意志の観点と自然法則の観点とがやや無造作に対比されている点は、哲学史的にはさまざまな議論が積み重ねられてきた論題でもあり、今後のさらなる考究を期待したい。

審査員賞

  • 受賞論文 「フェミニスト現象学における「産み」をめぐって―男性学的「産み」論の可能性―」
  • 【掲載誌名】『女性学研究』第22号、99-126頁、2015年3月
  •  著者  居永 正宏(いなが・まさひろ)

講評

野家啓一(第九回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)

従来の男性中心的な哲学では主題化されてこなかった「産み」という問題を俎上に載せ、「死」と並ぶもう一つの人間の条件を浮き彫りにしようとした問題提起的な論文である。「産み」を出発点に性的交渉から子育てまでを射程に収めることによって、男性的主体をも組み込む形で議論の文脈を拡張し、フェミニスト現象学の新たな地平を切り開こうとした意欲に満ちた論文と評価できる。「産み」という概念を中心に置くことにより、男性的身体論の解体と再構築を目指し、男性の身体をパートナーの身体との関係性において把握しようとした試みは斬新であり、今後の展開が望まれる。ただ、全体として議論はいささか荒削りであり、また理論的基盤がなぜ現象学でなければならないのかが今ひとつ明確ではなかった。大胆かつ意表を突く問題提起であり、今後の研鑽を大いに期待したい。


  • 受賞論文 「ケアする責務と応答責任―プラグマティックな当為の位置づけをめぐって―」
  • 【掲載誌名】『倫理学年報』第64集、203-217頁、2015年3月30日
  •  著者  佐藤 靜(さとう・さやか)

講評

野家啓一(第九回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)

現代社会における喫緊の課題であるケアワークを主題に、ケアを提供する責任を「プラグマティックな責務」という観点から考察した興味深い論文である。著者はグディンが提起した「ヴァルネラビリティ・モデル」とそれを批判するキテイの「ドゥーリア・モデル」とを対比しながら、両者の利点と欠点とを考量し、最終的にはグディンの主張する「プラグマティックな当為」という観点からの道徳的責務のあり方を擁護する。著者の論述は、ケアワークのもつ特徴的な性格を十分に踏まえながら、「応答責任 (responsibility)」という観点から、ケアに対する責任の分配について説得力ある議論を展開している。ただ、キテイのグディン批判に対する著者による反批判については、少々論拠が弱いという印象を与える点が惜しまれる。なお、ヴァルネラビリティ・モデルもまたジェンダー平等という視点からは問題点を含むという著者の指摘は重要であり、今後のさらなる展開を期待したい。

最終候補論文

自薦・他薦併せて13篇の応募論文の中から、最終審査に残った最終候補論文は以下の通りです。

第九回社会倫理研究奨励賞選定委員会

授賞式・記念講演会のお知らせ

第9回社会倫理研究奨励賞および審査員賞の授賞式・記念講演会は、2016年3月14日(月) 15時より南山大学にて開催されます。詳細は、http://www.ic.nanzan-u.ac.jp/ISE/news/160219.htmlをご覧下さい。

歴代受賞論文:第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 [南山大学社会倫理研究所]