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アジア・太平洋研究センター

Nanzan University : Center for Asia-Pacific Studies

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アジア・太平洋研究センター主催講演会

The Exemplary Wife, or How to Read the Syair Putri Akal

(マレー詩の世界:模範的な妻、あるいは 「理性的な乙女」の詩をどう読み解くか)

              

        

      Willem van der Molen 氏                                                         (東京外国語大学客員教授)    

 

日 時 :  2012年4月20日(金)17:00-19:00

場 所 : 名古屋キャンパス N棟3階

          社会倫理研究会所 会議室

 

 オランダの王立言語地理民俗学研究所の研究員ウィレム・ファン・デル・モーレン氏(マレー文学、ジャワ文学、文献学)が、「シャイール」と呼ばれる詩篇文学についてインドネシア語で講演を行った。

 シャイールとは、ムラユ語(マレー語)で作られた韻文で、古典ムラユ文学というジャンルに区分される。4行で一つの連をなし、その4行は同一の韻を踏む。近代文学と異なり、書き手が不明であり、いつ書かれたかも定かでない。しかも印刷されていない手書きの写本であるため、判読に困難が伴う。今回題材となった「理性的な王女」は、古典ムラユ語をアラビア文字で記した、いわゆる「ジャウィ」筆記である。500連からなり、オランダのクリンケンKlinkenが筆写したが、現在はライデン大学図書館とジャカルタの国立図書館に所蔵されている。19世紀半ば以前に、いわゆるマレー世界(マレー半島、スマトラおよびその周辺)で編まれたと推測される。

 物語は、美しさで名高いブランタドゥラ国の王女が、ダムシク国の王子に求婚されるところから始まる。王女はまだ結婚の意思がないとしてこの申し込みを断った。しかし、王子が持っている踊る人形を見て、それをどうしても手に入れたくなった。父王に婚姻申し込みを受ける意思を示すが、父王は王女が一旦は断ったことを理由に、王女の願いを聞き入れなかった。そこで、王女は一計を案じ、彼女と顔がよく似た侍女を王子の許へ行かせた。侍女を王女と見誤った王子は、一晩床を共にすることを条件に、人形を渡すことを承諾する。こうして王女は人形を手に入れたが、真実を明かされて王子は辱められた。再び王女に結婚を申し込んだところ、父王からの許しが出て、王女も王子を愛するようになっていた。しかし、王子は王女に欺かれた復讐を胸に秘めていた。ダムシク国への帰路、王子は王女を自分の召使ラマットの許へ行くように命じ、国に到着すると王子は財務大臣の娘と結婚した。王女は、新しい夫と床をともにするまいとして、ラマットにヤシの実を料理するように命じたので、ラマットは朝まで仕事した。また、この夫は一晩かかるもうひとつの仕事をしなければならなかった。王女は、王子の新しい妻、財務大臣の娘に、人形をあげる条件に、一晩夫を交換するよう迫った。この秘密の約束から二人の男の子が誕生したが、その顔から息子たちの本当の父親は誰かがわかってしまった。王女は王子と再び結ばれ、財務大臣の娘は親元に戻され、ラマットは処刑されてしまった。

 従来の解釈では、この王女は、夫に裏切られたにも拘わらず夫を愛し続け、貞節を守ったと称賛された。夫の心を読み取り、冷静な判断で夫とよりを戻すのに成功し、模範的な妻と評された。確かに「理性的」な女性である。しかし、ファン・デル・モーレン氏はこれに疑問を投げかける。王女の理性は狡猾さとも言えるし、自分のためには下々の者を容赦なく犠牲にしており、封建社会の価値観に基づいた行いである。物語全体では、階級社会におけるルール、身分によって異なるルールが適応されていることが描かれている。生まれが重要であり、夫の地位に妻は従属させられる。特に、結婚に関しては、そのルールから逸脱しないようにすることが要求される。性的関係はそれを決定する鍵となる。このように、シャイールは社会の規範を反映した文学作品である。また一方では、騒動の発端となった「踊る人形」は海外から渡来したカラクリ人形とも考えられ、時代を考察する一端ともなっている。

 講演会には、学外からのインドネシア研究者3名のほかにも、インドネシア語を学んでいるアジア学科の学生や大学院生が10人ほど出席し、インドネシア語で質疑応答がなされた。ファン・デル・モーレン氏も、若い世代がマレー文学に関心を持ったことに大いに感激された様子であった。

                 (文責:小林 寧子)

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